不審者による子どもへの声掛け・誘拐、監禁などの事件はいつの時代も後を絶ちません。近年では小学生も一人一台スマートフォンを持つようになり一見安全に見えますが、実際は誘拐事件の件数は減っていないどころか、むしろ増えているのです。
ここ数年でも小学生の女の子が誘拐殺人事件の被害に遭う非常に痛ましい事件が起きています。
では、なぜ誘拐事件は減らないのか?子どもを危険から守るためにはどうすればいいのか?
今回は20年以上防犯専門店を運営している観点から、警察庁の統計データを引用しつつ大切なお子様を安全に守るための方法をご提案します。
index
・いつどこでどんな子どもがどんな理由で狙われる?
・声掛け・誘拐の手口
・防犯の手段
・位置情報で確実に見守る
・おわりに
未成年略取・誘拐の実態
令和3年までの5年間における略取誘拐(=無理やり連れ去られた)事件の認知件数は下記の通りです。スマホの普及で減少しているかと思いきや、ここ10年間で見ても誘拐事件は増加傾向にあります。2012年時点での認知件数は190件でしたので、その数は2倍にもなっています。
なお、このデータは警察に認知された略取誘拐事件の件数です。前犯罪である声掛け事案を含めるとさらに膨大な件数になると考えられます。
年次 |
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
認知件数 |
239 |
304 |
293 |
337 |
389 |
未成年被害者の学職別認知件数の推移は下記の通りです。
未成年略取誘拐は、小学生が誘拐されるイメージが強いですが、最近では中学生、高校生の被害も急激に増加しています。理由としてはSNSが発達し、ネット上のみの面識のない相手とも簡単に会うことができるようになったからだと考えられます。ネットでは相手の年齢や性別が分からないため、いざ会ってみたら年齢、性別を偽られていた、家や人気のない場所に連れ込まれたというケースは少なくありません。SNSのほか、出会い系アプリ、インターネットゲームなど、見知らぬ人と簡単に繋がりを持てるようになった現在では従来の道での声掛け以外を警戒するだけでは足りなくなっています。
スマホは保護者との連絡手段など便利な側面もありますが、こうした危険も多く持ち合わせていることから、最近の誘拐事件の増加に繋がってるという面もあります。
未成年被害者の学職別認知件数
|
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
未就学 |
21 |
32 |
25 |
28 |
24 |
小学生 |
34 |
47 |
48 |
48 |
43 |
中学生 |
29 |
64 |
49 |
61 |
41 |
高校生 |
26 |
48 |
47 |
61 |
66 |
狙われやすい状況
・ひとりで遊んだり、歩いている
周りに保護者や大人の目がない場所、時間に遊んだり行動している状況で狙われやすい傾向にあります。特に未就学児などの年齢が低い子どもの場合、保護者が見ていない隙に一人でどこかへいなくなってしまうケースも多いため、もし保護者が同伴していても気を付ける必要があります。
・15時〜18時 夕方の時間帯
夕方の時間帯は子どもが下校、外で遊ぶ、友達の家に遊びに行くなど外に出ていることが多い時間帯で、かつ季節や場所によってはによっては薄暗いこともあるため不審者にとっては非常に狙いやすく特に注意が必要です。また、朝7時〜8時、投稿する時間帯も狙われるケースがあります。
・人目が少ない場所
被害に遭った場所でもっとも多いのが「路上」です。道路は公園や駐車場などに比べて人通りが少なく幅員も狭いことも多いため、障害物で死角も出来やすく不審者にとっては非常に狙いやすい場所と言えます。その他にも公園、スーパー、エレベーター内なども被害例に挙げられます。
上記の三点を総合すると、通学中、特に下校時はもっとも不審者に注意するべき状況と言えます。
誘拐の動機
声掛け・誘拐の動機として、以前は身代金要求など金銭を目的としていた認識が一般的でしたが、昨今では子どもにいたずらをしたい、仲良くなりたい、子供が好き、わいせつ目的といった動機による事件が多発しています。ですので一概に「お金持ちの家の子どもではないから」と安心することはできません。
また、自身の欲求のために子どもを狙うならば性別・年齢の対象も女の子や小学生などに限った事ではありません。「自分の好み」な子どもであるかが誘拐を行う基準となってしまうだけでなく、中には誘拐できそうな子どもならどの子でも良いと考える不審者もいます。
誘拐事件では被害者の半数以上が騙されるなどで自らついていってしまう言われています。
声の掛け方、話し方は純粋な子どもに付け入るために非常に巧妙です。
ここではパターンに分けて全国の警察署に報告された声掛けの例を紹介します。
1・親切を装う、親しげに近寄る
「お母さんが事故に遭ったから病院につれていってあげる」
「寒いから送ってあげる」
「お母さんに一緒に遊ぶように頼まれた」
2・子どもの興味のあるものを話題にする
「お金あげるからおいで」
「おもちゃをあげるからおいで」
「テレビ番組のインタビューに答えてくれませんか?」
「芸能人になりませんか?」
3・助けを求める
「駅までの道が分からないからついてきてほしい」
「おなかが痛いからさすって」
「足をくじいた。自転車に乗せてくれ」
4・不安や恐怖を覚える行為を伴うもの
声掛けを断ったら衣服を掴まれた。
「こっち来い、早く来い」と声をかけられ、体を触られた。
「学校どこ?」などと声をかけられ、つきまとわれた。
助けを求めようと携帯電話を手に取ったら無理やり奪われた。
腕を引っ張られて車の中に入れられそうになった。
上記のものはほんの一例であり、子どもの純粋な善意や好奇心に付け込んだ悪質な誘い文句が多くあります。
また、4のパターンのように誘いを断ったりしても大人の体力の強さを利用して体が未成熟な子どもを力づくで誘拐しようとするケースもありますので、 こうした誘い文句を子どもに言い聞かせる事で子どもが騙されずに断れるようになるのはもちろんのこと、無理やり誘拐されそうになった時にも対抗できる防犯手段を講じましょう。
誘拐、声掛けに対する防犯においては声を掛けられないための防犯、声を掛けられたときの防犯、それぞれの対策を予め考えることが必要です。
声を掛けられないための防犯
子どもと約束事をする
・知らない人にはどんな理由があっても絶対についていかない。
・「知らない人」とはどういう人なのかを具体的に話す。
・一人で遊ばないようにする。
・家族の大人に「どこで、誰と、何をするのか。何時に帰ってくるのか」を伝えてから出かける。
・夕方遅くまで遊ばない。
・ゲームセンターやカラオケボックス、繁華街に子どもだけで近づかない。
・インターネットの使用ルールを決める
"子どもと話し合う機会を持ち、しっかり約束やルールを決めることはもっとも重要な防犯で、不審者からの声掛けだけでなく、インターネットを介した誘拐の回避にも役立ちます。
しかし、約束をしっかり守ってもらうのは簡単ではなく 約束事の意図を子どもに本当に理解をしてもらう難しさがあります。約束の意図を理解してもらうために、ゆっくり時間を取り、防犯に対する対話の時間を持つことが重要です。
また、子どもだけにルールを増やしすぎると不満に「どうして自分だけ・・・」と不満に繋がりかねません。子どもだけとは言わずに家族一人一人に約束を作り、子どもに協力できる環境を作ることも良いでしょう。
安全マップを子どもと一緒に作成する
オリジナルの安全マップ作成は、子どもが行動する範囲にある狭い道や、街灯が少ない、人通りが少ない等の危険な場所を把握するのに有効な防犯手段です。安全マップを作成する際も子どもと通学路、公園、友達の家までの道のりを歩き、どこが危険だと思うかを一緒に考えて安全マップに反映させてください。
さらにに助けを求める時にはどこに行くべきか(子ども110番の家、交番、お店など)もマップに記載しておくとより安全です。
自宅周辺の整備
自宅の周りだから安全というわけではなく、不審者は犯行が可能であると判断すれば容赦なく襲ってきます。帰宅時に鍵を開けて自宅の扉を開けた途端に家に押し入られる、自転車置き場で自転車を置こうとしたら後ろから抱き付かれたかなどの事案が実際に発生しています。
犯人が潜むことが出来る死角を作らない、自宅建物の植木や障害物を減らす、防犯カメラを設置する、人感ライトを設置するなどの不審者が狙いにくい対策を講じることが重要です。
こうした対策は強盗や空き巣の対策にも役立ちます。
防犯パトロールなど地域で協力をする
自分以外の協力を必要とするため、簡単には実行に移せないこともありますが、人の目があることは最も効果的な防犯です。
既にPTAや町内のボランティアで実施されている地域も多いですが、地域によっては若年層はボランティアには参加せず、半数以上が定年を迎えた方で構成される場合も多く、ボランティアの高齢化が問題となっています。
PTAや町内会などは敬遠しがちかもしれませんが、自分の子どもを守るためにぜひPTAや町内会での会合で自分から相談や提案をしてみてください。
声を掛けられた時の防犯
防犯ブザーを使用する
防犯ブザーは低コストかつ不審者に出くわした時に子どもがし得る手段の中でも特に効果に期待できる防犯です。学校から支給されていたり、携帯を義務付けられている場合も増えていますが、誤動作やいたずらを嫌って持ち歩かない子どももいます。
不審者は防犯ブザーを持っている子どもよりも持っていない=抵抗しなさそう、防犯意識に欠けている子どもを狙います。防犯ブザーは声を掛けられた際の防犯はもちろん、不審者に対する牽制にもなります。必ず見える場所に着けて持ち歩くようにしましょう。
防犯ブザーのデザインや誤動作が気になる場合は、子どもが持ちやすいキャラもののブザーや、誤動作防止の機能が付いたブザーを買いましょう。他にもランドセルのベルトに付けられるブザー、大音量にこだわったブザー、 なかには「助けてー!」と音声付きの防犯ブザーもあります。単に学校に支給された防犯ブザーがすべてではありませんので、子どもの反応を見ながら新しい防犯ブザーの購入を検討すると良いでしょう。
また、不審者が目の前にいるという恐ろしい状況でも使えるように、ご購入後は子どもと一緒に使い方を練習したり、定期的に動作チェックをすることも重要です。
大声で助けを求める
防犯ブザーの項目で記載した通り、不審者が目の前にいる状況では子どもは耐え難い恐怖を感じ声が出せなくなってしまうこともあります。そのために防犯ブザーは非常に重要なものですが、いくら練習していてもいざその場になってみるといきなり襲い掛かって使う隙がなかったなど、必ず使える状況にあるわけではありません。
そのような万が一の状況に備えて「助けてー!」と大声を出せる練習を子どもと一緒にしておきましょう。
安全な建物へ逃げる
一度不審者に捕まってしまうと子どもの力では抵抗することができないため、まず捕まらないために危険を察知し逃げられる状況であればすぐに逃げましょう。
子ども110番の家、交番、お店など大人の目がある場所を第一に、そのような場所がない場合はすぐ近くの民家でもためらわずに駆け込みましょう。よっぽどの事情がない限りは助けに応じてくれるはずです。
身の安全が確保さえできれば、あとは保護者や学校へ連絡や警察の通報など落ち着いて大人に対処してもらうことができます。
本来であれば上記の防犯手段を尽くして声を掛けられないことが最善ですが、不審者が人間である以上、どんなに対策をしていても防犯に絶対はなく、誘拐事件に巻き込まれてしまう可能性はゼロにはなりません。したがって万が一誘拐されたときまでもを考慮して備えてこそ、子どもを無事に守ることに繋がると言えます。
保護者の目に届かない子どもをリアルタイムGPS発信機(以下GPS発信機)で見守り、常に位置情報を把握しておくことができます。
昨今では子ども用の携帯電話(キッズケータイ)にGPS発信機能が当たり前に付いている時代となりました。ではなぜ、GPS機能が付いている携帯電話があるにも関わらず、GPS発信機専用の機器が必要なのか。それはGPS発信機の秘匿性にあります。キッズケータイにGPS機能が当たり前に付いているということは、子どもを狙いたい不審者であれば知っている可能性が高いです。
ですので携帯電話だけを持たせておいても、不審者に気づかれ取り上げられてしまえば意味がありません。しかしGPS発信機の端末は充電を行う時以外は鞄の奥底に忍び込ませておきますので、日常的に使う携帯電話よりも見つかりにくく、携帯電話よりも認知度が低いため不審者がGPS発信機の存在自体を認知していないことも考えられます。
万が一携帯電話・又はGPS発信機のどちらかが見つかってしまったとしても、不審者はこれ以上発信機はないだろうと安堵してそれ以上の探索はしなくなる可能性もあるため、携帯電話とGPS発信機どちらも持つことをおすすめします。
これまでお話しした通り、子どもの純粋さや弱さに付け込んだ悪質な犯行は後を絶たず、今後も被害に遭わないようにこちらが防犯をしていくしか防ぎようがありません。
こういった話でよく上がるのが「まさか自分の子どもは巻き込まれるわけがない」というものですが、その根拠はどこにもありません。誘拐に限らず、犯罪はその「まさか」に起きるものです。防犯とは事件に巻き込まれることを少しでも回避するための手段ですので、対策を行った結果巻き込まれなければそれが一番良いのです。「対策したけど何もなかったから無駄だった」ではなく「対策していたから何事もなく安全に過ごせた」が正しいです。
子どもと話す、ルールを決めるなど、誘拐を回避するための防犯はお金をかけなくても始めることができます。ぜひお子様やご家族で防犯とは何か、声掛け・誘拐に遭わない為にはどうしたら良いかを話し合ってください。